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東京地方裁判所 昭和46年(ワ)10433号 判決 1974年4月22日

原告 遠山偕成株式会社

右代表者代表取締役 遠山一行

右訴訟代理人弁護士 伊東正雄

被告 中島厳

<ほか三名>

右被告ら訴訟代理人弁護士 木屋政城

主文

一  被告中島厳は原告に対し、別紙物件目録記載の建物を取去して同目録記載の土地を明渡し、且つ、昭和四四年一〇月一日から右土地明渡ずみまで一ヶ月金二二四〇円の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社日新、同青葉美佐子、同太田清は原告に対し、前項記載の建物から退去して前項記載の土地を明渡せ。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告は、主文同旨の判決を求め、被告らはいずれも「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

〔被告中島に対する請求〕

一  請求原因

(一) 原告は昭和四二年五月より以前から、被告中島厳に対して、原告所有の別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を賃貸して引き渡した。

(二) 右賃貸借は次の1又は2のいずれかの事由により終了した。

1 民法六一二条による解除

(1) 被告中島は中村義光との間の渋谷簡易裁判所昭和四三年(ノ)第二六三号調停事件の同四四年四月一八日の期日において、同人に対する元利合計二、五四九、九〇〇円の債務の存在を認めてその分割支払等を約し、その支払を遅滞して同年八月三一日を経過したときは、右債務の履行に代えて中村に対し本件土地上の別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という)の所有権を本件土地の賃借権とともに譲渡する旨代物弁済を約し、かつそのときは中村に対し本件建物を明け渡すことを約束し、その旨調停調書に記載された。

(2) 中村は昭和四四年八月三一日の経過により、右約束に基づき本件建物および本件土地の賃借権を取得し、かつ同年一〇月一五日には被告中島に対し本件建物の明渡の強制執行をしてその明渡を受け、本件土地を現実にも使用することとなった。

(3) 原告は被告中島に対し、昭和四五年七月一九日に到達した書面で本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

2 条件付解除の合意

(1) 本件土地の賃貸借につき、昭和四二年五月二日原告、被告中島及び中村の三者間で、原告は被告中島が中村に対して負担する債務のために、同被告が本件建物を担保に供することを承諾するが、被告中島の債務不履行により本件建物の所有権が中村に移転するようなときは、本件賃貸借は当然解除される(その場合、原告が建物を買い取る)旨の合意をした。

(2) 1(1)、(2)で主張したとおり、本件建物は昭和四四年八月三一日の経過により被告中島から中村に移転した。

(三) 被告中島は現在本件建物を所有している。

(四) 本件土地の賃料は一ヶ月二、二四〇円の約束であった。

(五) 以上の事実により、被告中島に対し、賃貸借終了に基づく原状回復として、本件建物収去と本件土地明渡を求めると共に、昭和四四年一〇月一日から本件土地明渡済まで一ヶ月二二四〇円の割合による金員(請求原因(二)1の終了が認められるときは昭和四五年七月一九日までは賃料、同月二〇日以降は損害金として、又請求原因(二)2の終了が認められるときはすべて損害金として)の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告中島)

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)1(1)の事実中、被告中島が中村に対し原告主張のような債務の存在を認めて支払を約し、本件建物につき原告主張のような代物弁済を約する調停が成立したことは認める。同(二)1(2)の事実中原告主張のとおり中村から本件建物明渡の強制執行を受けたこと、及び同被告がこれを明け渡したこと(もっとも強制執行に着手されたが明渡の完了は任意にした)は認めるが、本件建物の所有権および本件土地賃借権が中村に移転したことは争う。代物弁済における不動産所有権の移転は、その旨の移転登記の時点に生ずるというべきで、被告中島は原告との関係を考えて中村に対する所有権移転登記手続をしなかったのであるから、代物弁済は完結しておらず、本件建物の所有者は依然被告中島である。同(二)1(3)の事実は認める。

同(二)2(1)の事実は否認する。同(二)2(2)については、右(二)1(2)について認否したと同じである。

(三) 請求原因(三)及び(四)の各事実は認める。

三  抗弁(被告中島)

(一) 請求原因(二)1に対し

原告は昭和四二年五月二日、被告中島に対し代物弁済による賃借権の譲渡を承諾した

(二) 請求原因(二)1ないし2に対し

仮に1の事実が認められないとしても、被告中島と訴外中村との間で、昭和四六年六月二五日代物弁済契約を解除する旨の合意が成立したので、本件建物及び賃借権は被告中島に復帰した。

四  抗弁に対する認否

抗弁(一)の事実は否認する。本件建物に訴外中村のための担保権を設定することの承諾は与えただけである。代物弁済になれば、かえって賃貸借契約が解除される旨合意したくらいである(請求原因(二)2(1))。

〔被告青葉美佐子、同太田清、同株式会社日新に対する請求〕

一  請求原因

(一) 本件土地は原告の所有である。

(二) 被告青葉、同太田、同被告株式会社日新(以下被告日新という)は、本件建物に居住し、本件土地を占有している。

(三) よって原告は被告青葉、同太田、同日新に対し、本件土地の所有権に基づき、本件建物から退去して本件土地の明渡しを求める。

二  請求原因の認否(被告青葉、同太田、同日新)全部認める。

三  抗弁(被告青葉、同太田、同日新)

(一) 被告中島は同日新に対し、昭和四六年七月二五日、原告の賃借権譲渡の承諾を停止条件として、本件建物および本件土地の賃借権を代金四〇〇万円で譲渡する契約をし、同日新は同中島に手附金二五〇万円を支払った。

(二) 右契約に際し、原告の賃借権譲渡の承諾が得られずに契約が失効した場合における被告日新の同中島に対する前記手附金の返還請求権を担保する趣旨で被告日新、同青葉、同太田が本件建物を無償使用し得る旨の合意があり、被告日新、同青葉、同太田はいずれも右合意に基づき本件建物に居住しているものである。

(三) 被告中島の本件土地の占有権原は原告主張のとおりの賃借権(被告中島に対する請求原因(一)のとおり)であり被告青葉、同太田、同日新は本件土地の占有権原として右被告中島の占有権原を援用する。

四  抗弁に対する認否

抗弁(一)、(二)の各事実はいずれも知らない。

五  原告の再抗弁及び被告青葉、同太田、同日新の再々抗弁ならびにそれぞれの認否は、被告中島に対する請求原因(二)抗弁(一)、(二)とそれぞれに対する認否と同旨である。

第三証拠関係≪省略≫

理由

第一被告中島に対する請求について

一  請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  請求原因(二)1(1)の事実中、被告中島と中村との間で、昭和四四年四月一八日の調停期日に、被告が中村に対する元利合計二、五四九、九〇〇円の債務の存在を認めてその分割支払等を約し、その支払を遅滞して同年八月三一日を経過したときは、中村は被告中島の債務の履行に代えて本件建物を取得する旨の調停が成立したことは当事者間に争いがない。

右争いのない事実によると、中村は昭和四四年八月三一日の経過とともに、代物弁済により本件建物の所有権を取得したものというべきである(同日以前に被告中島が債務の履行をしたことは被告中島の抗弁となるが、その主張はなく、むしろ不履行を自認している)。そして、借地上の建物が譲渡される場合は、特に借地権を留保すべき合理的事情がある場合(例えば建物取毀しのためとか他に移築するために譲り受けるなど)を除き、両者の経済的一体性からみて、敷地の借地権も建物の所有権と共に当然譲渡されると解すべきであるから、中村の本件建物の所有権取得により、同人は同時に本件土地の賃借権も取得したというべきである。

被告中島は、代物弁済は所有権移転登記がなされてはじめて完結するところ、中村に対する本件建物の所有権移転登記はなされていないから、所有権も移転していないと主張するが、不動産所有権移転登記の完了(つまり対抗要件の完備)は、代物弁済による債務消滅の効果を発生させるために必要な要件であって、所有権の移転は代物弁済契約の成立により直ちに生ずる(意思主義)と解すべきであるから、本件においては昭和四四年八月三一日の経過により本件建物の所有権は債権者たる中村に移転したものというべきである。被告中島の主張は、代物弁済における債務消滅の効果発生の要件と、目的物の所有権移転の効果の発生要件(民法六一二条の適用については後者が重要である)と彼比混同するものである。

更に、被告中島が中村から本件建物の明渡の強制執行に着手され、昭和四四年一〇月一五日には本件建物を明け渡した(任意であれ強制執行であれ)ことは当事者間に争いなく、この事実と前判示の事実を総合すると、遅くとも同日以降は中村は本件土地を現実にも占有支配しているということができ、これは民法六一二条二項にいう「賃借物ノ使用」に当り契約解除原因となることは明らかである。

三  抗弁(一)の事実を認めるに足る証拠はない。かえって≪証拠省略≫を総合すると、被告中島は昭和四二年頃小俣実から融資を受けるに当り、本件建物を担保に供することを要求され、原告に承諾を求めたところ、原告は承諾を渋っていたこと、被告中島の再三の懇願の結果昭和四二年五月二日に至り、本件建物を担保に提供することは認めたがもし被告中島の債務不履行により、本件建物の所有権が小俣に移転しなければならないような事態となったときには、事前に被告中島が時価を以って本件建物を原告に譲渡すること、もし被告中島の債務不履行により本件建物の所有権が小俣に移転するようなことがあっても小俣が賃借権を承継することを認めず、原告が、本件建物を借地権付の時価で買取る、という条件を付したこと、その後同月一八日被告中島は、中村から融資を受けることとなったので、債権者を中村に変更することになり、原告は同様の条件で本件建物を担保とすることに同意したに止まることが認められる。

四  請求原因(二)1(3)の事実は当事者間に争いがない。

五  抗弁(二)につき判断するに、被告中島は、同被告と中村との間の本件代物弁済契約は昭和四六年六月二五日合意により解除されたと主張するが、すでに賃貸借契約が解除された後になって代物弁済契約が合意解除され所有権が被告中島に復帰したとしても、これによってすでに生じた契約解除の効力を左右することはできないから、被告中島の右抗弁は主張自体失当として排斥を免れない(被告の論法をもってすれば、賃借権の譲渡転貸による解除後に、譲渡転貸を合意解除すれば、賃貸借契約の解除は常に効力を失なうことになる。この不合理であることは多言を要しないであろう。)

六  請求原因(三)、(四)の各事実は当事者間に争いがない。

七  以上によると、原告と被告中島との間の本件土地の賃貸借は昭和四五年七月一九日に終了したというべく、したがって同被告に対し本件建物収去と本件土地明渡を求め、昭和四四年一〇月一日から同四五年七月一九日までは賃料として、同年同月二〇日以降右土地明渡済までは損害金として、それぞれ一ヶ月につき金二、二四〇円の割合による金員の支払を求める原告の請求は正当である。

第二被告青葉、同太田、同日新に対する請求について

請求原因事実は当事者間に争いがなく、右被告らが抗弁として援用する被告中島の賃借権がすでに消滅していることは被告中島に対する請求において判断したとおりである。

したがって、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求は正当である。

第三結び

以上判断のとおり原告の各被告に対する請求はいずれも正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上谷清 裁判官 桜井登美雄 裁判官大沼容之は転任のため署名捺印することができない。 裁判長裁判官 上谷清)

<以下省略>

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